夜尿:どんな症状? 原因やリスクは? 自分で対処する方法は? どんなときに医療機関を受診すればいいの?
更新日:2020/11/11
- 夜尿症治療の専門家の大友 義之と申します。
- 「おねしょ」が小学校に入学しても解消しないと不安になりますし、まして、「昼間のおもらし」も伴っていたら、とても困られていると思います。
- さらに、あまり多くはありませんが、いったん「おねしょ」が治っていたのに、突然再発してしまう方がおられます。
- そこでこのページでは、夜尿の一般的な原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察のなかで、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 昼間の尿失禁【しっきん】(おもらし)の治療は4歳から、夜尿症の治療は6〜7歳からが目安になります。
- 夜尿症は、「5歳を過ぎても夜間就眠中にみられる間欠的尿失禁」です。
- 夜尿症の1割は二次性のもので、原因となっている病気の診断と治療が重要です。
夜尿症ってどんな病気?
- 夜尿症とは、「5歳を過ぎても夜間に眠っているあいだにみられる間欠的尿失禁」のことです。
- 約4分の3の患者さんは夜尿症のみ(単一症候性夜尿症)ですが、約4分の1の患者さんは昼間の尿失禁などの膀胱【ぼうこう】から尿道【にょうどう】の出口までにあたる下部尿路【かぶにょうろ】の症状もいっしょにみられます(非単一症候性夜尿症)。
- 二次性の夜尿症では、脳腫瘍【のうしゅよう】や脊髄炎【せきずいえん】などの脳や脊髄の病気、甲状腺機能亢進症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群などの重い病気によって引き起こされていることが、まれですがあります。
- 二次性の夜尿症では詳しい検査が必要なことがあり、原因となる病気がない場合は、ストレスなどの心因性(こころの病気)の要因を考えて対処します。
- しばしば、慢性の便秘症や、注意欠如多動障害・自閉スペクトラム症など心因性の病気がいっしょにあることにも注意が必要で、それへの適切な対応で夜尿症(や昼間尿失禁)が解消することがあります。
どんな原因があるの?
- 単一症候性夜尿症の原因としては、次のようなものが考えられます。
単一症候性夜尿症の原因
- 夜間就眠中の抗利尿ホルモンの分泌低下による夜間多尿
- 就眠中の排尿筋過活動による膀胱への蓄尿量の不足
- 尿意に対する覚醒障害
- 非単一症候性夜尿症では、次のような病気などが原因として挙げられます。
非単一症候性夜尿症の原因
- 先天性の二分脊椎症
- 尿管異所開口を含む先天性腎尿路の形態的・機能的異常
よくなるために自分でできることはあるの?
- 夜尿症は生活習慣の見直しにより、1割程度の患者さんが自然に治ります。
- 夜尿症を解消するためには次のようなことを心がけてください。
夜尿症を解消するための生活習慣の見直し
- 7割の患者さんに夜間多尿があり、夕方以降に水分をとるのをひかえることが有効で、とくに就寝2時間以内はコップ1杯(200 mL)程度にひかえる。
- 就寝前に必ずトイレで排尿をする。
- 冷えも夜尿のリスクになりますので、温かくして寝る。
- 昼間の尿失禁もある場合は、尿意の有無にかかわらず2〜3時間ごとに排尿を行う。
どんなときに病院へ受診したらよいの? 医療機関の選び方は?
- 一般には、3歳過ぎにトイレットトレーニングが完了し、「昼間のおもらし」(昼間尿失禁)は解消します。
- 「おねしょ」は5歳までに8割が解消しますので、5歳を過ぎても睡眠中に1か月に1回以上、3か月連続で「おねしょ」がある場合は病的と考えて「夜尿症」と診断されます。
- 小学校入学を契機に多くのお子さんが自然に治癒します。
- 次のような場合は、かかりつけの小児科医に相談してください。
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- 次のような場合は、専門医の診療を受けてください。
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お医者さんではどんなことが行われるの?
- 問診:「一次性夜尿症か二次性夜尿症か」「単一症候性夜尿症か非単一症候性夜尿症か」を調べるため、患者さんやその保護者からお話を聞きます。
- 性器の異常や腰部の正中に凹みがないか調べ、ある場合は潜在性二分脊椎という病気を疑って、詳しい検査をします。
排尿記録の作成
- 膀胱の実際の容量を評価:昼間に排尿をギリギリまでがまんしてもらい、その尿量の測定します。
- 膀胱の実際の容量は、体重kgあたり5mL以上、または全量で250mL以上あれば正常です。
- 夜間に寝ているあいだの尿量測定:オムツを漏らした尿の量と起きたときに排出した尿の量を合計します。
- 夜間尿量は、体重kgあたり、かつ睡眠時間1時間あたり0.9mLを超える、または全量で250mLを超える場合は夜間多尿です。
- 前に述べた生活習慣の見直しをあらためて徹底し、2週たっても夜尿の改善がみられない場合は、積極的な治療を行います。
お薬(デスモプレシン)による治療
- 抗利尿ホルモン薬であるデスモプレシンというお薬を投与します。
- 夜間多尿のある夜尿症の患者さんに効果があり、7割の患者さんで夜尿がなくなるか改善します。
- 口の中で唾液により溶ける錠剤【じょうざい】で、寝る前に水を飲まずに舌の下で溶けさせます。
- 水を飲んで服用したり、服用後にうがいをしたり歯みがきをすると効果が少なくなります。
- 服用後2時間以内に水を飲むのはひかえることが必要です。
- 大量に水を飲んだ状況で服用すると水中毒(希釈性低ナトリウム血症)という状態を引き起こすことがあります。
- 水中毒の症状としては次のようなものが挙げられます。
水中毒の症状
- 頭痛
- 嘔気
- 重篤な場合、意識障害や痙攣
- 夜尿が解消したらだんだんと減らし、中止します(急に中止すると症状が再び現れることがあります)。
夜尿アラーム治療
- 夜間多尿のない患者さんで有効で、夜間多尿がある場合は抗利尿ホルモン薬をあわせて服用します。
- 夜尿アラームは、パンツに尿を感知するセンサーをつけて、尿でぬれるとアラーム音が鳴る医療機器です。
- アラームが鳴った場合、すぐに本人に気づかせることが重要で、自分で気づけない場合は、家族が本人を起こしてアラームを止めさせます。
- これにより、夜間に寝ているあいだの尿をためる量が増えます。
- 4週間で効果がみられることが多いですが、6週間たっても効果がない場合は中断することが望ましいです(有効率は約65%)。
- 14日連続で夜尿が消失するまで続けます。
- 改善した段階で、夜間の飲水量を増やし、夜間尿量が増えても失敗しないという訓練(オーバー・ラーニング)を行うと、再発率を減らすことができます。
もっと知りたい夜尿のこと!
そのほかの治療は?(医療従事者向けのコンテンツ)
- 約2〜3割の患者さんが、抗利尿ホルモン薬や夜尿アラーム治療では寛解に至りません。
- 次の3種類の薬物で効果が得られることがあります。
抗コリン薬
- 過活動膀胱の治療薬で、非単一症候性夜尿症の患者さんで昼間尿失禁への有効性は確立されており、抗利尿ホルモン剤との併用により夜尿にも有用です。
- 数少ない副作用の1つが便秘症ですので、慢性便秘が基礎にある排尿障害の場合は、便秘の治療を行ってから本剤の併用を考慮してください。
- ソリフェナシン2.5mgまたは5mgを1日1回(昼間尿失禁の治療なら朝食後、夜尿の治療なら夕食後内服)、あるいは、イミダフェナシン0.1mgまたは0.2mgを1日2回(朝夕食後内服)が汎用されています。
三環系抗うつ薬
- 1960年代から夜尿症の治療に使われており、次のような作用により効果が得られると考えられています。
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- 過量投与による致死的不整脈の副作用に対する懸念から、国内外のガイドラインで第3選択の位置づけにあります。
- イミプラミン10〜25mg(就寝前)服用です。
漢方薬
- さまざまな漢方薬が難治例で使用されていますが、エビデンスは確立していません。
- 夜尿患者に多くみられる、「尿意に対する覚醒障害」の原因は、近年の国内外の臨床研究から、睡眠深度が深いためではなく、むしろ浅い質の悪い睡眠が持続しているためと考えられています。
- この観点から筆者は、抑肝散【よくかんさん】2.5g(夕食後)を使用しています。
追加の情報を手に入れるにはどうしたらいいの?
- 日本夜尿症学会では2016年に治療のガイドラインを発刊しました(筆者が作成委員長を担当)。
- 『夜尿症診療ガイドライン2016』(日本夜尿症学会編、診断と治療社、1-136ページ、2016年)
- MindsのHPよりリンク:https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/nocturnal-enuresis/nocturnal-enuresis.pdf
- ガイドラインを踏まえて金子一成先生が著された『小児科医が知っておきたい 夜尿症のみかた』(南山堂、1-122ページ、2018年)にも、有益な情報が収載されています。