抗うつ薬:どんな薬?種類や強さは?副作用は?依存や離脱はあるの?
更新日:2020/11/11
- このページに来ていただいた方は、主にうつ病のお悩みがあり、抗うつ薬の処方を希望されておられるかもしれません。
- 抗うつ薬を飲み始めるにあたり、それがどのような薬であるのかについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしい」ことについて記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 抗うつ薬は神経を伝達する物質を増やすことで、「抑うつ症状」と「不安症状」を改善させるお薬です。
- 効果が出るまでに約2週間かかり、急に中止すると調子が悪くなることがあるので、主治医の指示を守って飲んでください。
- 副作用がでることがあります。吐き気、眠気、抑うつ・不安症状の一時的な悪化などがありますので、あらかじめ主治医の説明を十分聞いてください。
どんなくすり?おおよその値段は?
- 抗うつ薬は、脳内のセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンという神経を伝達する物質を増やすことで、「抑うつ症状」(気分が落ち込む憂うつな症状)と「不安症状」を改善させるお薬です。
- さまざまなお薬がありますが、セロトニンを主に増やす薬(SSRI)、セロトニンとノルアドレナリンの両者を増やす薬(SNRI、NaSSa) とドーパミンを刺激する薬などがあります。
どんな目的で飲むの?
- 抗うつ薬は、抑うつ状態や不安状態の改善を目的とします。
- 適応となる病気は下記のとおりです。症状は、個人差がありますが、抑うつ気分、不安・焦り、興味がなくなる、意欲の低下、睡眠の障害、食欲の低下などが対象となります。
うつ病
- 抑うつ症状などの「こころの症状」と、睡眠の障害や食欲の低下などの「からだの症状」があります。
- 抗うつ薬の主な適応となります。
パニック障害
- 胸がドキドキする・汗をかく・呼吸しにくい・胸の痛み・死ぬ恐怖などからなる「パニック発作」、症状がまた起こるかもという「予期不安」、苦手な場所や行動を避ける「回避行動」などがあります。
- パロキセチン、サートラリンなどのSSRIに適応があります。
強迫性障害
- 不潔への恐怖・何度も確認する行為などの「強迫症状」と、ある考えが頭から離れない「強迫観念」の2つからなります。
- フルボキサミン、パロキセチンなどのSSRIに適応があります。
社交性不安障害
- 多くの社交の場での人に対する「恐怖」、「不安」、「回避行動」などがあります。
- フルボキサミン、パロキセチン、エスシタロプラムなどのSSRIに適応があります。
心的外傷後ストレス障害
- 苦痛な心のトラウマに関連する「不安症状」、心のトラウマに関連する「回避行動」、心のトラウマに関する「認知と気分の症状」、ストレスを受けた後も体が緊張した状態のままである「覚醒亢進」などがあります。
- パロキセチン、サートラリンなどのSSRIに適応があります。
どのように飲むの?
- フルボキサミンは1日2回、ミルナシプランは1日2~3回、それ以外のSSRIとSNRIは1日1回です。
- ミルタザピン、トラゾドン、ミアンセリンは、1日1回、夕食後か寝る前です。眠気が強いため、睡眠の効果も考慮するためです。
- その他のSSRI,SNRIは一般的に覚醒度が上がるので、原則は朝食後1日1回です。副作用としての眠気が出る場合には、夕食後や寝る前に飲みます。
飲み始めるときの注意点は?いつまで使うの?自分でやめてよい?
- 飲み始めるときは以下のことに注意してください。
- 初めて飲む場合は主治医とよく相談する:初めて飲むときは、自分の抑うつ状態、不安状態の症状から、自分に適切な抗うつ薬の種類と用量について相談し、主治医の病気の見通しに関する意見を聞いてから開始することが大切です。
- 主治医の指示を守る:抗うつ薬は、うつ状態・不安状態から回復するまできちんと医師の指示を守って飲み、回復後約6か月飲み続けたのちに、少しずつ減量して中止することができます。ただし、再発を繰り返している場合は、主治医とよく相談して、飲む期間を決めることが大切です。
副作用ってよく聞くけど、どんなことが起こるの?治療中の注意点は?
- 抗うつ薬は、依存性はなく安全性が高い薬ですが、SSRI/SNRIなどの抗うつ薬には以下の副作用や注意点があります。
吐き気・下痢
- 飲み始めに起き、1週間程度で収まることが多いです。
- 飲む前に主治医から十分な説明を受けておくことが必要です。
- ご不安であれば、モサプリドなどの胃薬を主治医から同時に出してもらうことをお勧めします。
眠気
- ミルタザピン、トラゾドン、ミアンセリンは、眠気が強いため、1日1回夕食後か寝る前に飲みます。
- その他の抗うつ薬は、朝中心に飲みますが、眠気があるときには1日1回夕食後か寝る前に飲みます。
- いずれも、主治医に症状を説明して、ご相談してください。
アクチベーション症候群
- 抗うつ薬の開始時や量を増やした時に、不安・いらいら感、パニック発作、刺激されやすい、攻撃しやすい、自殺したい(特に若い人)など、抑うつ・不安症状が一時的に悪化する状態です。
- 自殺に関連する行動や他の人を傷害する行為につながることが稀にあります。
- ベンゾジアゼピン系のお薬やトラゾドンと一緒に飲むことが有効であることが知られています。
セロトニン症候群
- 錯乱、吐き気、下痢、発熱、汗をかく、腱反射が亢進する、体の震えなどが、SSRIを増量した後、数日以内に起こることがあります。
- 早い発見と、SSRIの中止やベンゾジアゼピン系のお薬を一緒に飲むことが必要です。
- 気が付けば少しでも早めに主治医を受診しご相談ください。
中止後発現症状
- SSRIを急激に中断すると、めまい、頭痛、吐き気、不安などの症状が生じることがあります。
- 医師の指示を守り、急に中止しないようにしてください。
どんな種類の薬があるの?
5種類のタイプ
- SSRI:最も一般的なタイプです。脳内のセロトニンだけを増加させ、抑うつ状態・不安状態を改善させます。特に、不安・緊張に対して効果が強いのが特徴です。
- SNRI:脳内のセロトニンとノルアドレナリンだけを増加させ、抑うつ状態・不安状態を改善させます。特に、意欲に対して効果が強いのが特徴です。用量の幅が大きいので、重症な抑うつ状態に使用することも可能です。
- NaSSa:脳内のセロトニンとノルアドレナリンだけを増加させ、抑うつ状態・不安状態を改善させます。特に、睡眠・食欲に対してすぐ効くのが特徴です。SSRIやSNRIと作用が異なるため、一緒に使うことも可能です。
- ドーパミン作用薬:脳内のドーパミンを増加させ、抑うつ状態・不安状態を改善させます。特に、少ない量で、意欲・食欲などに効果があります。SSRIやSNRIと作用が異なるため、一緒に使い、作用を強めることが可能です。
ベンゼン環構造を有するもの
- 二環系:脳内のセロトニンを増加させ、特に睡眠障害を改善します。
- 三環系:うつ状態、不安状態に対して古くから使用されているタイプで、値段が安いです。SSRIやSNRIに効果がない場合や、妄想などを伴う重症例でも、効果を認めることがあります。ただし、便秘・口の渇きなどの副作用があります。
- 四環系:うつ状態、不安状態に対して古くから使用されているタイプで値段が安いです。SSRIやSNRIに効果がない場合でも、効果を認めることがあります。また、睡眠作用、SSRIとの一緒に使うことで作用を強めるものもあります。三環系ほどではないですが、便秘・口の渇きなどの副作用があります。
患者さんからよく聞かれる質問は?
抗うつ薬を飲みながら、運転できる?
- SSRIであるパロキセチン、サートラリン、エスシタロプラム、SNRIであるデュロキセチン、ベンラファキシン、ミルナシプランの合計6剤は、 「運転については十分注意する」という条件で、運転は可能となっています。
- それ以外の抗うつ薬を飲んでいる間は運転禁止です。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016
- http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/img/160731.pdf
日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016
もっと知りたい! 抗うつ薬
アルコールと一緒に飲んでもいいですか
- 飲酒そのものを控えてください。
- アルコールと一緒に飲むと、抗うつ薬の血中の濃度が上昇して、副作用が生じる可能性があります。
- また、飲酒はうつ状態を悪化させることが知られています。
お薬の値段は?
お薬は飲み続けるの?
- 効果が感じられるまで約2週間はかかるので飲み続けてください。すぐは効かないので、症状があるときだけ飲むのはお勧めしません。
- しかし、トラゾドン、ミアンセリンは、眠れないときにだけ飲んでよく眠れるようにすることもあります。