アルツハイマー病:原因は?症状は?検査や治療は?進行を防げるの?
更新日:2020/11/11
- 脳神経内科専門医・認知症専門医の下濱 俊と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分がアルツハイマー病になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- アルツハイマー病は、「もの忘れ」を主な症状として、年単位でゆっくり進行する認知症疾患です。
- 40歳から90歳の間で発症します。特に65歳以降に多いです。
- 症状は、新しいことを覚えられなくなり、時には出来事自体を忘れてしまう記憶障害、場所や時間の判断がつかなくなる見当識障害が特徴です。これらの症状が原因となり、怒りっぽくなったり、物をとられる妄想など行動・心理症状がでることがあります。
- アルツハイマー病は認知症疾患の一つですが、認知症を引き起こす疾患としてはその他にも多くのタイプの認知症が含まれています。これらの疾患とアルツハイマー病を明確に区別することは、治療方針や予後などを正確に考察する上でもとても重要となります。
アルツハイマー病は、どんな病気?
- アルツハイマー病は、年単位でゆっくり進行する認知症の病気です。
- この病気は40~90歳の間で発症し、特に65歳以降に多いです。
アルツハイマー病と思ったら、どんなときに病院・クリニックへ受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- もの忘れが頻繁におこるようになったなど、下記のような場合は、アルツハイマー病を疑い、医療機関の受診を検討してください。
認知症を疑うチェックポイント
- 物忘れが多くなる。物のおき忘れ、しまい忘れがよく起こる。大切な約束事を忘れる。言った事を忘れて同じことを何回も言う、何回も聞いてくる。
- 日時が分からなくなる。何回も日時や曜日を聞いてくる。慣れ親しんでいるお稽古事の曜日を確認するようになる。
- 些細なことですぐに怒るようになる。
- 意欲・自発力の低下がみられる。例えば、長年慣れ親しんだ趣味やお稽古事に関心がなくなった、外出しなくなった、など。
- 認知症を疑った場合のはじめの診断はかかりつけ医で行うようにしましょう。認知症の原因がアルツハイマー病であるのか、他の疾患なのかを鑑別するために、脳神経内科、精神科、老年科などの認知症専門医に紹介を検討します。紹介されたら、認知症であるかどうか、神経心理検査、頭部CTやMRI、脳血流SPECT検査などを施行し、症状の経過や検査結果より認知症の鑑別診断を行います。
- アルツハイマー病と診断された場合には、症状の進行に合わせて薬物治療とともに家族への今後のケアの教育などが行われます。
- 認知症専門医による診断後はアルツハイマー病に対する今後の方針を決めて、かかりつけ医で診てもらいます。状態が大きく変化した場合には改めて認知症専門医に相談してください。
アルツハイマー病になりやすいのはどんな人?原因は?
- アルツハイマー病は脳にさまざまな変化がおこり、発症します。
- その他、アルツハイマー病には、病気を引き起こす可能性のある因子がいくつか存在することも知られており、年齢や遺伝的因子が代表的です。
- 遺伝的因子に関連して家系内でアルツハイマー病が多発することもあります。家族性アルツハイマー病は、プレセニリン1、2と呼ばれる遺伝子などに異常が病気の発症に関与していると考えられています。
- ダウン症の方はアルツハイマー病を発症しやすいことも知られています。
- 糖尿病などの生活習慣病や運動不足も認知症を発症する原因の1つであると考えられており、食事や運動など生活習慣の見直しがアルツハイマー病の予防にもなるのではないかといわれています。
もっと知りたい人は!~アルツハイマー病での脳の変化~
- アルツハイマー病での脳の特徴的な変化を下記にまとめました。
アルツハイマー病に特徴的な脳の変化
- 老人斑の出現:「アミロイドβ蛋白」と呼ばれる物質で構成されています。アミロイドβ蛋白は神経に凝集することで「アミロイド線維」と呼ばれる物質を形成し、神経細胞に障害を与えることになります。
- 神経原線維変化:「微少管関連蛋白タウ」と呼ばれるものに由来しており、老人斑と同様にアルツハイマー病の原因になります。
- 神経細胞・シナプスの脱落:老人斑、神経原線維変化が相互作用することなどで神経細胞が障害され神経細胞・シナプスが脱落し、脳が萎縮することになります。
※こうした脳の変化が生じることで、アルツハイマー病は発症するといわれております。
どんな症状がでるの?
- 典型的にアルツハイマー病は65歳以降の初老期に発症し、徐々に進行し、進行度に応じて症状も変化します。
- 初期の段階は「軽度認知障害」と呼ばれる段階であり、少し前の出来事を思い出せない、といった程度であり、日常生活に支障を来すことはありません。
- 病状が進行すると、数分前のことでも思い出せなくなります。さらに日付を思い出せないように、時間の感覚が分からなくなってしまったり(見当識障害)、段取りをつけて物事を実施できない(実行機能障害)、判断力の低下などが出現します。ほかにも自発性が失われたり、うつ気分がみられ、物を盗られたという妄想が目立つ場合もあります。この段階になると、徐々に日常生活に支障がみられるようになります。
- その後、失語(ものの名前がうまくいえないなど)、失行(服を順序よく着れなくなるなど) 、失認(目や鼻などの感覚器に異常がないにもかかわらず、周りの状況を把握することが低下すること)なども出現します。
- その他、人によっては、妄想や徘徊が見られる場合もあります。進行すると、身内であっても認識できなくなり、最終的には全面的な介護が必要となり寝たきりとなります。
- 若年で発症した場合は、記憶障害以外の症状が目立つことも多いです。
- 非典型的な症候をきたすアルツハイマー病も全体の6~17%を占めます。視覚認知障害が目立つものや、言語障害のみが目立つもの、徘徊などの行動異常や実行機能障害が目立つものなど非典型例もみられます。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 認知症の疑いで病院へ行ったら、まず症状についての問診をします。どのような症状がいつ頃から現れているかなど聞かれます。
- その後、認知症の診断に必要な身体診察、神経学的検査や画像検査などの検査を行います。
- 認知症の検査には次のような方法があります。
- 神経心理検査:診察室で医師が患者さんに行うテストのようなものです。認知症であるか否かのスクリーニングを目的とします。
- 血液検査:認知症が疑われた際に、認知症を引き起こす全身疾患とそれ以外の認知症疾患の鑑別に有用です。
- 脳脊髄液検査:アルツハイマー病の場合、アミロイドβタンパク(Aβ42)の低下、リン酸化タウタンパクと総タウタンパクの増加が見られることが多いです。
- 頭部画像検査(CT,MRIなど):アルツハイマー病の場合、脳の構造である海馬や大脳皮質の萎縮が見られます。
- 脳血流SPECT、糖代謝PET:病気の早期には後部帯状回という脳の一部で血流や糖代謝が低下し、症状が進行するにつれて脳の他の部位に拡大します。
もっと知りたい人は!~神経心理検査とは~
- 神経心理検査とは、診察室で医師が患者に行うテストのようなものです。日本では長谷川式認知症スケール(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised:HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)が広く用いられています。
長谷川式認知症スケール
- 長谷川式認知症スケールでは、年齢・日時・場所の見当識、3つの単語の記憶、計算や数字の逆唱、3語の遅延再生、5物品記銘、言葉の流暢性(野菜の名前)の9つの設問からなります。
- 最高点は30点満点で21点以上を正常、20点以下を認知症の疑いとします。
Mini-Mental State Examination(MMSE)
- MMSEは国際的に最も国際的に最も広く使用されている方法で、日時・場所の見当識、3語の即時記憶、計算もしくは逆唱、3語の遅延再生、物品記銘、読字、言語理解、文章理解、文章構成、図形把握の11の設問からなります。
- 最高点は30点満点で24点以上を正常、23点以下を認知症の疑いとしていましたが、最近では27点以上を正常、22〜26点を軽度認知症の疑い、21点以下を認知症の疑いが強いとする基準も用いられるようになっています。
- 他にも、より簡便なスクリーニング法として「10時10分もしくは8時20分を指す時計の文字盤を描かせる」Clock Drawing Test(CDT)や年齢、日付、生年月日などのみを質問する方法なども挙げられます。
どんな治療があるの?
- アルツハイマー病に対する治療薬として、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬が承認されています。
コリンエステラーゼ阻害薬
- 脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を阻害し、アセチルコリンの量を維持します。これによって脳内の神経系を働かせて認知症の進行を遅らせようとするものです。
- ドネぺジル、ガランタミン、リバスチグミンの3種類があります。それぞれの作用機序や体内での働き方などは異なり、あるコリンエステラーゼ阻害薬で効果が不十分な場合などでも他の薬剤への変更により改善する可能性があります。
- コリンエステラーゼ阻害薬の副作用としては食欲がなくなる、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状が多いです。重大な副作用として、徐脈、心不全等が報告されています。
- これらの副作用は他のコリンエステラーゼ阻害薬との併用により、共通の副作用が現れたり、副作用が重篤化する可能性があるため、コリンエステラーゼ阻害薬同士は併用しないよう、添付文書に明記されています。
NMDA受容体拮抗薬
- NMDA受容体拮抗薬はNMDA受容体の働きを抑えることで、神経の障害を防ぐ作用があります。
- 代表的なものにメマンチンがあります。
- 副作用としてはめまい、眠気、頭痛、便秘などが報告されています。
- 中等度~重度のアルツハイマー病に対しては、どのコリンエステラーゼ阻害薬もメマンチンと併用可能です。
治療中の注意
- 認知症の重症度により対応に注意が必要です。
重症度別の特徴
- 軽度のアルツハイマー病:記憶障害が主な症状であり、日常生活に支障をきたす状態です。基本的な日常生活に大きな問題はありませんが、薬物療法をできる限り早く開始し、症状の進行を遅らせることが大切です。この段階では記憶障害以外の症状の改善にもアルツハイマー病治療薬が有効なことが多いです。
- 中等度のアルツハイマー病: 記憶障害以外の症状(徘徊や性格の変化など)が目立ってきます。日常生活である程度の介護が必要となります。患者は医療者側が説明したことをすぐに忘れてしまいがちになり、治療の説明は介護者中心になります。この時期も認知症症状への薬物療法の効果が期待できます。
- 重度のアルツハイマー病:身体・精神症状が著しく低下し、最終的には脳の広範な病変のために、睡眠・覚醒はできるが話すことができない・動くことができない状態になります。家庭での対応や診療所への通院が困難となり、介護施設への入所や訪問診療が中心となることが多いです。重度のアルツハイマー病に対しては薬物療法も有効ですが、介護が主体となります。
看護・介護のポイント
- 軽度の段階では薬物療法をできる限り早く開始し症状の進行を遅らせることが大切であることを、患者および介護者に伝えることが大切です。介護者への教育もこの状況下が最適であり、介護者の適切な対応により患者の生活環境が改善され認知症の症状が減り、介護者の負担も軽くなります。
- 中等度の段階になると介護者は患者の症状のケア、服薬管理、日常生活の介護など負担が大きくなり、介護者が抑うつ状態になることも多いため、介護サービスの利用など介護をひとりで抱え込まないようにと介護者へのアドバイスも大切です。
- 重度の状態になると患者は無言・無動となり、「痛い」や「苦しい」といった自覚症状を訴えないので、訪問診療においては、脱水、嚥下障害や感染症、転倒による骨折などの合併症に注意する必要があります。入院など環境の変化でせん妄などが起こりやすいので、できるだけ環境や習慣を変化させず、継続的に介護を受けられる体制を整えることが望ましいです。
予防のためにできることは?
- アルツハイマー病の予防として定期的な運動、食生活の見直し、趣味、ボランティアなどの活動、認知訓練、適度な飲酒が挙げられます。
- アルツハイマー病の予防方法は確立していません。しかし、健康的なライフスタイル(運動、食事)、積極的な社会参加、脳の活性化など様々な活動が有効であろうと考えられています。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 薬物治療を行うことによってアルツハイマー病の認知症症状の進行を遅くし、周囲とのコミュニケーションを長く保ち、介護の負担を軽減することができます。しかし、一度なってしまった症状を元に戻すことや進行を止めることはできません。
- そのため早期診断・早期治療が重要となります。
追加の情報を手に入れるには?
- アルツハイマー病を含む認知症に関しては下記のページを見るとよいでしょう。
- 厚生労働省のサイト
- (https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_recog.html)
- 認知症疾患診療ガイドライン2017(医学書院)も参考にして下さい。