急性膵炎:原因は? 症状は? お酒や食事との関係は? 検査や治療は?
更新日:2020/11/11
- 消化器病指導医、膵臓病指導医の藤澤 聡郎と申します。
- このページに来ていただいた方は、もしかすると「自分が急性膵炎になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 急性膵炎とは、お酒の飲みすぎなどが原因で膵臓がダメージを受け、炎症を起こしてしまう病気です。
- 多くの場合、おなかに強い痛みを感じます。重症になると命の危険を伴うこともあります。
- 急性膵炎が起きる原因は、お酒や脂肪のとりすぎ、胆石、膵臓癌などです。
- 入院していただいて膵臓を休ませることが、治療の基本になります。また、膵臓にダメージを与えている原因を取り除き、ふたたび炎症を起こさせないようにすることが大切です。
急性膵炎は、どんな病気?
- まず、膵臓とその働きについて説明させてください。膵臓は胃の裏に位置する、厚さ1~2cm、長さ約15cmの細長い臓器です。消化を助ける酵素や、血糖値をコントロールするホルモンをつくる働きがあります。
- 急性膵炎とは、お酒の飲みすぎなどが原因で膵臓がダメージを受け、炎症を起こしてしまう病気です。
- 炎症を起こした膵臓から酵素が漏れ出て、周りの臓器や膵臓自身を傷つけるため、お腹の痛みはとても激しいです。
- 一度急性膵炎になると、何度も繰り返すことが多いです。また、慢性膵炎に移行してしまう可能性もあります。そのため、おおもとの原因を取り除き、予防を心掛けていただくことが大切です。
急性膵炎と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの? 医療機関の選び方は?
- だんだん激しくなる強いおなかの痛みがある場合は、急性膵炎の可能性があります。まずはかかりつけの内科に受診してください。
- 夜間や休日でかかりつけ医が休診の場合は、ちゅうちょせず近くの救急外来を受診してください。急性膵炎と診断された場合は、入院して治療ができる病院へ転送されることになります。
救急車を呼ぶ場合
- おなかの痛み、おう吐などが激しく、動くことも難しい場合
- 意識がもうろうとしている場合
- ひどく息苦しい場合
急性膵炎になりやすいのはどんな人? 原因は?
- 急性膵炎は男性にやや多い病気です。しかし最近では、女性も飲酒量が増えたために、女性の急性膵炎が増えているといわれています。
- 体質で膵炎になりやすい人となりにくい人がいます。一度膵炎になった人は、ふたたび膵炎を起こしやすくなります。
急性膵炎の原因
- 一番の原因はお酒、その次が胆石です。男女別では、男性ではお酒、女性では胆石が一番の原因となっています。
- おなかの手術などで膵臓が傷ついた場合も、膵炎の原因になります。そのほか、脂肪のとりすぎや膵臓癌、お薬やウイルスなどが原因となります。
- タバコも急性膵炎になる確率を上げます。
どんな症状がでるの?
- 急性膵炎の主な症状はお腹の痛みです。9割以上の方が、はじめにお腹の痛みを感じます。痛くなる場所はお腹の上の方が多いですが、おへその周りや、左右の脇腹が痛くなる方もいます。
- ただし、重度の糖尿病や、意識が悪くなっているときは、おなかの痛みを感じにくいことがあります。
- 急性膵炎の症状を、あらわれる確率の高い順にまとめました。
急性膵炎の症状
- お腹が痛くなる
- 吐いてしまう
- 背中が痛くなる
- 熱が出る
- 食欲が落ちる
- お腹が張った感じがする
- 全身がだるくなる
- 下痢をする
- 血圧が急に下がってしまう
- 意識が急に悪くなってしまう
- 皮膚や白目が黄色くなる(黄疸【おうだん】といいます)
- 口から血を吐いてしまう
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- お腹の痛み、吐いてしまう、熱が出る、という症状だけで急性膵炎と診断するのは、熟練した消化器内科医でも難しいです。次のような検査を行って、急性膵炎の診断基準に当てはまれば、急性膵炎と診断して治療を進めます。
- まずは問診を行い、患者さんに気になる症状を詳しく伺います。次のことをまとめておいていただき、お話しいただけると、病気の診断に役立ちます。
お医者さんにお伝えいただきたいこと
- お腹はどんなふうに痛む?
- どの部分が痛い?
- 痛みの強さはどのくらい? 強くなったり弱くなったりする?
- 今までにかかった病気は?
- 今飲んでいるお薬はある? その種類は?
- 普段のお酒の量は?
- タバコは吸う?
- 最近どんなものを食べた?
- 海外に行った経験はある?
- 診察:お腹の張りや硬さなどを確かめ、どの部分を押すと痛いのかなどを診ていきます。
- 血液検査:採血を行って、膵臓から出る消化酵素や炎症が起こっていることの目安となる物質が増えていないかなどを調べます。
- 尿検査:膵臓から出る消化酵素が尿に含まれないか確認する場合もあります。
- 腹部レントゲン写真:腸が詰まったり、消化管に穴が開いていないかなどを確認します。
- 超音波検査や腹部CT、MRIなどの画像検査:膵臓の状態を画像で確認します。膵臓が腫れていたり、膵臓の周囲に炎症がある場合は急性膵炎を疑います。
医療従事者向けコラム:急性膵炎の診断基準
- 1.膵炎を疑う症状、2.採血での膵臓酵素の上昇、3.超音波検査や腹部CTで膵臓に炎症がある、以上3つの手がかりがそろったときに急性膵炎と診断します。
- 2つしかそろわないが膵炎が疑わしい時は、疑診として検査を続けたり、治療を開始したりします。
医療従事者向けコラム:急性膵炎の重症度判定
- 急性膵炎と診断したらただちに軽症か重症かの判定を行います。重症度判定は2008年の厚生労働省急性膵炎重症度判定基準を用います。
- 具体的には、症状と採血、年齢からなる9つの予後因子と造影剤を用いた腹部CTの2つで判定します。予後因子が3つ以上当てはまった場合、もしくは腹部CTがgrade 2以上だった場合に重症と判定します。
- 予後因子の当てはまる数が多いほど、腹部CTのgradeが高いほど、より重篤な状態であり命の危険が高まります。詳しい判定基準は本稿の最後に示した、急性膵炎診療ガイドライン2015を参照してください。
どんな治療があるの?
- 急性膵炎は命にかかわることもありますので、基本的には入院していただいて治療します。入院中は食べ物を食べないで胃腸と膵臓を休ませ、点滴で水分を補います。
- 症状がよくなってきたら、脂肪分を抑えた消化によい食事を少しずつ摂っていただきます。食事をしても症状が悪化しなくなったら退院です。
重症の急性膵炎の治療
- 急性膵炎による症状が強い場合、集中治療室での治療が必要になる場合もあります。
- 膵臓の外に漏れ出した酵素を中和するお薬(たんぱく分解酵素阻害薬)や、細菌感染を予防するための抗生剤を投与します。
- 膵臓の周囲に膿などが溜まってしまうこともあります。その場合は、内視鏡や外科手術で溜まった膿を取り除く必要があります。
膵炎の原因に対する治療
- 膵炎が悪化するのを防ぐため、膵臓にダメージを与えている原因に対する治療も行います。
- 胆石があれば、内視鏡を使って胆管に詰まっている結石を取り除きます。
- 必要に応じて、禁酒や食事の指導、高脂血症に対する治療も行います。
予防のためにできることは?
- 急性膵炎はくり返す可能性が高い病気です。原因に対する治療をしないと、半数近くの方が再び急性膵炎になってしまいます。
- ですから、急性膵炎の症状が落ち着いたら、急性膵炎になった原因にしっかり対処していくことが大切です。
禁酒
- お酒が原因だった場合、ふたたび膵炎にならないようにするためには、禁酒が唯一かつ最も効果的な予防法です。
- アルコールへの依存がある場合は、専門機関での治療を受けていただくことをお薦めします。
胆石の治療
- 胆石が原因の場合は、入院中に胆管の胆石を内視鏡で取り除きます。
- 胆嚢内に胆石が残っている場合は、胆嚢も切り取る必要があります。
禁煙
- たばこを吸う方は禁煙も予防に役立ちます。たばこは、急性膵炎を起こす可能性を大きくするといわれています。
バランスのよい食事
- 日頃の食事による急性膵炎の予防効果ははっきりしていませんが、お酒の飲みすぎや食べすぎ、太りすぎは、急性膵炎の原因になる血液中の中性脂肪を増やします。
- 食べすぎに注意し、バランスの良い食事をとるようにしてください。
その他
- 急性膵炎を引き起こしたと思われるお薬がある場合、そのお薬は飲まないようにしてください。
- 高脂血症がある方は高脂血症を治療してください。
- 肥満は急性膵炎の重症化と関係があるといわれています。日頃から体重管理に気を配ってください。
治るの? 治るとしたらどのくらいで治るの?
- 急性膵炎になってしまったら入院が必要ですが、軽症の場合、1~2週間で退院できることがほとんどです。あなたが幸いにも退院できたとしたら、今回の急性膵炎による命の危険は去ったといえるでしょう。
- ただし、約20%の確率で重症の膵炎になる方もいらっしゃいます。運悪く重症になってしまった場合は、1か月を超える入院が必要になることがあります。
- また、急性膵炎になった方の2%の方が命を落とすといわれています。
- 急性膵炎は命の危険を伴うこともまれではない重大な病気ですから、予防を心掛けていただくことを強くお勧めします。
医療従事者向けコラム:急性膵炎と慢性膵炎の関係
- 急性膵炎の10%前後が慢性膵炎に移行します。
- 急性膵炎の重症度に比例して、慢性膵炎に移行する確率が高くなることが知られています。
- 慢性膵炎になることを予防する方法は未だにわかっていません。
追加の情報を手に入れるには?
- 医療従事者対象ですが、急性膵炎の症状や治療に関するガイドラインが金原出版から発売されています。
- 『急性膵炎診療ガイドライン2015、第4版』
- 公益財団法人日本医療機能評価機構(Minds)が、インターネットでも上記ガイドラインを公開しています。下記のアドレスから閲覧することができます。
- https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0011/G0000740/0001