髄液シャント術:どんな治療?治療を受けるべき人は?治療内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2022/05/20
- 脳神経外科専門医の石川 正恒と申します。
- このページに来ていただいた方は、ご自身やご家族の方が水頭症の診断を受け、手術を勧められて、どのような治療なのだろうかと不安に感じていらっしゃるかもしれません。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしい」ことについて記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 髄液シャント術は、脳や脊髄に過剰にたまった水を、体の別のスペースに移して吸収する治療で、身体の機能をうまく利用しようとする手術です。
- 髄液シャント術は、水頭症という病気に対して行います。
- 髄液の圧を調節するシャントバルブには、取り扱いに注意が必要なものがあります。さまざまな種類がありますので、手術を受ける際は、主治医によくご確認ください。
髄液シャント術は、どんな病気に行う治療ですか?
- 髄液シャント術は、水頭症という病気に対して行われる手術治療です。
- 水頭症とは、脳の中央部にある脳室という部分が大きくなってしまう病気です。脳室には、誰でも髄液という水分が湖のようにたまっていますが、水頭症ではたまる量が多くなっています(図表1)。
コラム:水頭症の種類
- 水頭症は、年齢や原因、髄液圧などによっていろいろな分類がなされています。
- 年齢による分類:乳児水頭症・小児水頭症・高齢者水頭症など
- 先天要因による分類:先天性水頭症・後天性水頭症
- 原因による分類:二次性水頭症(くも膜下出血や重症頭部外傷後の水頭症)、特発性水頭症(原因不明の水頭症)
- 髄液圧による分類:正常圧水頭症、高圧性水頭症
- 進行スピードによる分類:急性水頭症(症状が急に進む)、慢性水頭症(症状がゆっくりと進む)
図表1 水頭症
髄液シャント術には、どんな種類があるのですか?
- 髄液シャント術とは、脳や脊髄に過剰にたまっている髄液の少量を、水をよく吸収できる部位までチューブで流し、そこで吸収させる治療です。体にもともとある機能をうまく利用しようとする手術です。
- 髄液シャント術には3種類の手術がありますが、効果は同等とされています。もっともよく行われるのは脳室腹腔シャント術(VPシャント)です。
髄液シャント術の術式
- 脳室腹腔シャント(VPシャント):髄液をお腹に誘導して、お腹の中の腹膜で、吸収させるようにする手術です。
- 脳室心房シャント(VAシャント) :髄液を胸に誘導して、心臓の中の心房という部分から吸収させるようにする手術です。
- 腰部クモ膜下腔腹腔シャント(LPシャント):脊髄腔にたまった髄液をお腹に導き、腹膜で吸収させる手術です。
図表2 髄液シャントの術式
左:脳室腹腔シャント、中:脳室心房シャント、右:腰部クモ膜下腹腔シャント。
実際にはどんなことをするのですか?
- 最もよく行われるVPシャントを例にとって説明します。
- まず、感染防止のため、髪の毛の一部を剃ります。皮膚を切って、頭の骨に小さな孔を開け、そこから脳室に向けて細いシリコンの管(図の矢印です)を脳室に入れていきます。管が脳室に入ると、髄液がこの管からでてきます。この管を、髄液圧を調節するシリコン製のバルブ(シャントバルブといいます、図の矢頭です)につなぎます。これに、さらに細いシリコン管(腹腔管といいます)をつないで、おへその近くまで、皮膚の下を通して行きます。最後にお腹に小さな切開を入れて、お腹の中にシリ コン管を20-30cm挿入したら、開いた皮膚を縫いあわせて、終わりです。
コラム:シャントバルブ
- 圧調節はシャント機能を良好に保つために必要です。圧調節バルブには固定式や圧可変式があります。
- 圧可変式バルブは、MRI検査で設定圧が変わってしまうことがありますが、最近ではMRI検査でも圧設定が変わらないバルブもあります。
- バルブの種類は担当医に聞くのがよいと思います。
図表3 シャントバルブ
左:レントゲン写真。矢印はシリコン管、矢頭はシャントバルブの一部を示しています。右:CTでシャント管が脳室に入っていることを示しています。
髄液シャントは長時間かかるのですか?
- VPシャントは全身麻酔で行います。LPシャントは腰椎麻酔で行うこともあります。
- 手術そのものは1時間前後ですが、麻酔や体位交換といった操作もありますので、大体2 時間から3時間程度の手術です。
髄液シャント術を受けるとどのような症状がよくなるのですか?
- 術液シャント術を受けていただくと、意識障害、歩きにくい、もの忘れ、おしっこの障害がよくなる方が多いです。
- しかし、症状の程度は、脳がどの程度障害を受けているかにも関連しますので、どのくらいよくなるかは個人差があります。
- どのくらいよくなるかを確実に予測することはできませんが、大体どれくらいの改善が期待できるのかは、担当医に聞いておくのも良いと思います。術後にリハビリが必要な場合もあります。
髄液シャント術の合併症にはどんなものがありますか?
手術後すぐのリスク
- 脳室内出血:脳に管を入れた際に血管を傷つけ、頭の中で出血が起こることがあります。血液をサラサラにするお薬を飲んでいる方は、手術前に止めていただきますが、ご病気との関係で投与したままのこともあり、その場合は血が止まりにくくなるので注意が必要です。
- シャント感染:免疫力の低い乳幼児やご高齢の方に起こりやすいです。管を入れた部分がかゆくなり、そこをかいているうちに細菌が侵入することもあります。
- シャント閉塞:体の中にいれた管が詰まってしまうこともあります。
手術後しばらくしてからの合併症
- 慢性硬膜下血腫:髄液シャント術の後、1~2カ月後に血液が脳の表面にたまって脳を圧迫し、運動麻痺や意識レベルの低下などの症状を出す場合があります。
- 細隙脳室:髄液がシャントからたくさん流れすぎて、脳室がスリット状になって、とくに乳幼児では頭位が小さくなることがあります。
- これらの合併症があらわれた場合、バルブ圧を調整することで、症状が改善することもあります。なお、圧可変式バルブは、MRI検査で設定圧が変わってしまうことがありますので、あらかじめ担当医にどうすればよいか聞いておくのがよいと思います。
手術後の注意点は?
バルブの種類の確認
- 圧可変式バルブは、MRI検査などで圧設定が変わってしまうことがあります。最近は圧が変化しないバルブも使えるようになっていますが、設定幅は大まかになっています。
- 退院する際にバルブの種類や設定圧を記載した手帳をもらうと思いますので、受診する際には持参しておくのがよいと思います。
再診の頻度
- 最初の 3ヶ月くらいは1~2回の再診がありますが、その後は次第に再診の時期が伸びていくと思います。
- バルブ圧のチェックや術後の頭部CTといった検査が行われます。
退院後の経過
- 退院後の経過は、もともともっているご病気により異なります。リハビリが必要な場合や、泌尿器科など他科の受診が必要な場合もあります。
- 手術後に症状がよくなっていたのに、再び悪化することがあります。この場合、シャントの閉塞や慢性硬膜下血腫といった合併症が起こっている可能性もありますので、担当医にご相談ください。
- 手術を受けられた後は日常生活を少しでも多く過ごせるように、気持ちを前向きに持っていただくことが大切と思います。