胆のうがん・胆管がんに対する手術:治療内容や代替手段、リスク、合併症は?治療を受けるべき人は?
更新日:2020/11/11
- 肝臓、胆道、膵臓外科専門医の伊佐地 秀司、種村 彰洋と申します。
- 胆道がん (胆管がん・胆のうがん・十二指腸乳頭部がん) に対する治療として、外科的切除が唯一の根治的な治療法です。これを理解するために役立つ情報をまとめました。
目次
まとめ
- 胆道がん (肝内胆管がん・胆管がん・胆のうがん・十二指腸乳頭部がん) に対する治療には、外科治療と、抗がん剤を用いた治療があります。
- 胆道がんの手術は、がんのできた場所によって術式が異なります。上流(肝臓側)にできたがんは肝臓を切除する必要があり、下流(膵臓側)や十二指腸乳頭にできたがんの場合は膵臓を切除する必要があります。
- 進行した胆のうがんの場合、胆のうと肝臓の一部も一緒に除します。
- 手術を行った後は定期的に血液検査や画像検査を行い、最低5年間は再発が起こらないかチェックするため、外来に通院していただく必要があります。
胆のうがん、胆管がんに対する治療にはどんなものがあるの?
- そもそも胆道がんとは何でしょうか。まずは胆道について説明させてください。
胆道とは
- 胆管:肝臓で作られた胆汁を腸の中へ流すための管状の臓器です。肝臓内から外、十二指腸へと続きます。胆汁は、食べ物を溶かす消化液です。
- 胆管の詳細:肝臓のなかの肝内胆管と、肝臓の外に出ている肝外胆管に分けられます。さらに肝外胆管は上流の肝門部領域胆管と、下流の遠位胆管に分けられます。また、胆管の十二指腸への出口の部分はやや膨らんでおり、十二指腸乳頭とよばれます。
- 胆のう:胆管の途中につながる袋状の臓器で、胆汁を一旦貯めておく役割があります。
- 胆道と胆道がん:胆管と胆のうをあわせて胆道とよび、これらの部位に発生したがんを合わせて胆道がんとよびます。がんが発生した部位により、それぞれ肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がん、胆のうがん、十二指腸乳頭部がんとよびます (図表1)。肝内胆管がんについては、取扱い規約上、肝臓がんに分類されるため、肝臓の外の胆道がんについて主に説明します。
手術の適応
- 胆道がんを完全に治すことができる治療は、手術で胆道を含めた周囲の臓器を切除する外科的治療のみです。まずは、外科的治療が可能かを考えます。
- がんが胆のうや胆管、一部の周囲の臓器に留まっている場合は手術の適応になります。
- 肝臓や肺、リンパ節にがんが転移している場合や、肝臓内の胆管に広くがんが這って伸びている場合は、手術ができません。この場合は通常、抗がん剤治療を行います。
胆のうがん、胆管がんに対する治療の内容は?
- 胆道がんは、がんのできた部位によって手術方法が大きく異なります。
切除範囲
- 胆管の上流は肝臓のなかを木の枝のように広がっており、下流は膵臓の中を通っています。そのため、がんのできた部位によっては肝臓や膵臓、小腸の一部もいっしょに取る必要があり、比較的大がかりな手術になります。
- 中でも最も大がかりになるのは、肝臓と膵臓を同時に切除する場合です。
リンパ節郭清
- 周囲のリンパ節も一緒に切除します。これをリンパ節郭清とよびます。
- がんが進行すると周囲のリンパ管を破壊し、その中にがん細胞が入りこんで流れていきます。行き着いた先にはリンパ節があり、そこでがん細胞が食い止められて増殖します。これがリンパ節転移です。
- そのため、がんを残らず切除するためには、がんが転移している可能性があるリンパ節ごととる必要があるのです。
再建
- 病変を取り除いただけでは手術は完了でなく、切除後に残った胆管や膵臓、小腸をつなぎ合わせなければなりません。これを再建といいます。
具体的な手術の方法は?
- 具体的な手術方法と再建方法は以下の通りです。
肝内胆管がん
- 肝臓内の胆管に発生したがんを肝内胆管がんとよびます。
- がんを含めた肝臓の一部を切除します。がんが発生した部位によって、どの部分の肝臓をどれだけ切除するかが変わります。
- 場合によっては肝外胆管も合わせて切除します。また、周囲のリンパ節も合わせて取り除く場合もあります。
肝門部領域胆管がん
- 胆管の上流(肝外胆管、十二指腸乳頭部)にできたがん(肝門部領域胆管がん)に対しては、肝葉切除+肝外胆管切除術を行います (図表1)。
- 肝臓の外に出ている胆管(肝外胆管)を切除するのと同時に、肝臓の中を通っている胆管(肝内胆管)も切除します。胆管を含む肝臓の右半分、もしくは左半分、場合によっては半分以上の肝臓を切除します (図表2)。
- どの部分の肝臓をどれだけ切除すればよいかは、がんの中心が右、左のどちらに寄っているか、どこまで広がっているかによって変わります。
- がんが肝臓内の胆管まで広がっているほど大きく肝臓を取る必要があります。周囲のリンパ節も合わせて取り除きます。切除した後に、胆管と小腸をつなぎ合わせる必要があります。
遠位胆管がん、十二指腸乳頭部がん
- 胆管の下流にできたがん(遠位胆管がん)や、胆管の出口にできたがん(十二指腸乳頭部がん)に対しては、膵頭十二指腸切除術を行います (図表1)。
- 胆管と膵臓の一部(右側1/3〜1/2)、十二指腸も合わせて切除します。また、従来は胃の2/3程度切除していましたが、最近では胃を完全に残す方法(全胃温存膵頭十二指腸切除術)や、胃の出口の部分のみを切除する方法(亜全胃温存膵頭十二指腸切除術)があります。
- 周囲のリンパ節も合わせて取り除きます。また、切除した後には膵臓、胆管、胃を小腸とつなぎ合わせる必要があります。
- つなぐ順番も様々な方法があり、胆管、膵臓、胃の順番でつなぐ方法(Whipple法)、膵臓、胆管、胃の順番でつなぐ方法 (Child法)、胃、膵臓、胆管の順でつなぐ方法(今永法)があります。また膵臓を小腸ではなく、胃とつなぐ方法(膵胃吻合)を行う場合もあります (図表3)。
早期の胆嚢がん
- 早期がん(胆嚢粘膜にとどまっており、肝臓への浸潤がないもの)では胆のうのみを摘出する胆嚢摘出術を行います。なお、胆のうがんが疑われる場合は原則、腹腔鏡手術は行わないことになっています。
- また、早期の胆のうがんの場合はリンパ節転移の可能性が極めて少ないため、リンパ節郭清は通常行いません (図表4)。
進行した胆嚢がん
- 進行胆のうがんの場合は肝臓へ浸潤したり、胆のうの近くの肝臓内に小さな転移が存在する場合があります。そのため、胆のうが付着している部分の肝臓を含めて切除します。これを胆のう床切除術といいます。
- 肝臓へ血液を送る肝動脈にがんが浸潤している場合や、肝臓に広い範囲で浸潤している場合などは肝臓をさらに大きく、場合によっては右半分を切除する必要があります。
- また、周囲のリンパ節も合わせて取り除きます。がんが胆のうを超えて胆管へ広がっている場合や、周囲のリンパ節への転移が疑われる場合は、胆管も合わせて取ります。その場合は、取り除いたあとに胆管と小腸をつなぎ合わせる必要があります (図表4)。
図表1 胆道がん
図表2 膵頭十二指腸切除術
図表3 肝門部領域胆管がん手術
図表4 胆のうがん手術
治療を受けるにあたっての心構え
手術時間について
- 術式にもよりますが、胆管がんに対する膵頭十二指腸切除術の場合、手術時間は6-9時間程度、肝葉切除+肝外胆管切除術の場合は8-10時間、進行胆嚢がんの場合も5-8時間程度が予想され、比較的長時間の手術となります。
- ただし、がんの進行具合や術式、それぞれの患者さんの状態によっても異なります。状況によっては予定より手術時間が長くかかることもしばしばあります。
- また、手術前に麻酔をかける時間や手術の準備をする時間、また術後の処置や麻酔から覚めるまでの時間も必要です。
- なお、手術時間が予定より長くなったとしても、手術がうまくいかなかったわけではありません。
出血量について
- 出血量については500-2000mL程度が予想されます。出血量が多くなる場合は、手術中に輸血も行います。
- 手術後には手術の結果や状況についてくわしくご説明します。また、もし手術中に予想外の事態が発生し、術式などが大きく変更になる場合などは、手術の途中であってもご説明の時間をとることがあります。
麻酔について
- 全身麻酔をかけて手術を行います。全身麻酔とは、口から喉の奥へチューブをいれて、人工呼吸器につなげ、麻酔のガスや注射のお薬で完全に意識をなくした状態で手術を行う方法です。
- 場合によっては硬膜外麻酔という方法も一緒に使います。背骨のあたりから細いチューブをいれて、麻酔薬を注入する方法です。
- 手術中は完全に眠った状態であり、痛みを感じません。
- 手術が終了した直後に麻酔から覚まし、呼吸が安定してできるようになったのを確認してから手術室を出ます。手術直後は軽い会話であれば可能となります。
術後の痛みについて
- 手術後は、硬膜外麻酔から持続的に痛み止めを投与したり、点滴で持続的に痛み止めを投与します。
- しかし、それでも痛みはゼロにすることはできません。傷口の痛みを感じたり、腸が動き出した時におなかが痛くなることもあります。
- 痛みはがまんする必要はありません。痛い場合は遠慮なくおっしゃっていただければ、そのつど痛み止めを追加します。
- 傷の痛みは手術直後が最も強いです。その後、日に日に和らいでいきますが、それでも痛みが完全になくなるまでには数週間かかります。
手術前に心がけること
- 手術前も、それまでと同じく日常生活を送っていただけます。患者さんご自身の体力や栄養も大事ですので、食事をしっかりと摂っていただき、体も動かしてください。
- ただし、喫煙している方は、手術前後は禁煙していただく必要があります。なぜならば、タバコの影響で痰の量が増え、手術後に肺炎をおこしたり、肺の一部に空気が入らず潰れてしまったりと合併症の危険性が高くなるからです。最低でも手術が決まったその日から禁煙をし、可能な限り長く禁煙することが大事です。
手術後の早期の合併症について
- 手術によって引き起こされる望ましくない病状を合併症といいます。胆道がんの場合、術式によって合併症も異なります。その代表的なものを示します。
術後出血
- 肝臓、膵臓を切除する手術では、その周りの血管を必要に応じて切りとったり、剥がしたりする場合があります。手術中に出血が起こった場合はしっかりと止め、手術を終了する前には出血がないことを十分確認したうえで、おなかを閉じています。
- しかし、まれに、手術後にも出血が続いてしまうことがあります。通常、手術の最後にドレーンとよばれるチューブをお腹の中に入れ、溜まった液などが体の外へ出るようにしていますが、そこから血液が出ているときには出血が疑われます。
- 輸血をしたり、場合によっては再手術を行って出血を止める必要がある場合もあります。
縫合不全
- 胆管がん、胆のうがんの手術では、胆管や膵臓と小腸を糸で縫ってつないだり、小腸どうしをつないだりします。つないだ部分にほつれが生じることがあり、それを縫合不全といいます。縫合不全で生じる合併症には、胆汁ろうや膵液ろうがあります。
- 胆汁ろう:肝外胆管切除術に胆管と小腸をつないだ際、ほつれができると、胆管に流れている黄色い胆汁がお腹の中に漏れてしまいます。その状態を胆汁ろうといいます。その場合、熱が出たり、おなかが痛くなったりします。またお腹に入っているドレーンから黄色い胆汁が出てくることもあります。漏れた胆汁がお腹に溜まってしまった場合は、ドレナージといって新たにチューブをお腹の中へいれて、溜まった液を体の外へ出さなければいけません。しばらくチューブから液が出続けますが、そのうち自然に量が減って治る場合が多いです。ただしそれには数ヶ月かかり、それでも治らない場合は手術が必要になることもあります。
- 膵液ろう:膵頭十二指腸切除術に膵臓と小腸をつないだ際、ほつれが生じると、膵臓の中の膵液がお腹の中に漏れることがあり、膵液ろうとよばれます。治療はドレナージが必要になります。まれに再手術が必要なこともあります。
術後胃拡張
- 術後1-2週間ほどしてから、お腹が張って食事が摂れなくなったり、吐いたりすることがあります。これは術後胃拡張といって、胃の動きが一時的に悪くなるからです。特に膵頭十二指腸切除術をした後に起こりやすいです。
- しばらく食事をとめて点滴を行い、胃を休めることで通常は回復します。
せん妄
- 手術後に意識があいまいになり、様々な精神神経症状を伴うもののことをいいます。見えないものが見えたり、つじつまの合わないことを言ったり、異常に興奮していたりする症状です。
- 手術による身体的なストレスも原因となっています。これらの症状は一時的なものですが、場合によっては点滴などのチューブ類を自身で引っ張って抜いてしまったり、暴れてベッドから転落したりと危険な行動を起こすことがあります。
- そのため、やむなく手足に抑制具を装着したり、興奮を抑えるための薬物治療をする場合もあります。通常、身体が回復してくれば、せん妄は自然におさまっていきます。
手術後の晩期の合併症、後遺症について
- 体が回復して退院した後も、合併症や後遺症が残る場合があります。
胆管炎
- 胆管と小腸をつなぐ手術をした場合、おなかの中の細菌が胆管の中へ逆流し、炎症をおこして熱が出る場合があります。これを胆管炎といいます。
- 術後数ヶ月または数年たってから起こる場合もあります。抗生剤の点滴治療などが必要になります。
栄養障害、下痢
- 特に遠位胆管がんや十二指腸乳頭部がんで膵頭十二指腸切除術を行った場合ですが、退院後も下痢が続くことがあります。これは、手術で腸の動きをコントロールする神経を切るために起こります。
- また、膵臓を切除したことにより、膵臓からの消化液が減少し、食べ物の消化、吸収が悪くなることも下痢と関係します。
- そのため、膵臓を切除した場合は、必ず膵臓の代わりになる消化酵素剤を飲んでいただきますが、それでも長期間の下痢により栄養状態が悪くなり、体重も手術前に比べて数kg減ることがあります。
- 適宜下痢止めのお薬を使用したり、1度の食事量を減らし、回数を増やすなどの工夫をしていただく必要があります。
手術を選択しなかった場合の治療とは
- 手術を選択しなかった場合は、抗がん剤や放射線治療を行うことになります。しかし、それらの治療はがんを完全に治すことはできず、がんの進行を一定期間抑えるための治療となります。
- 手術を行った場合でも再発の可能性はありますが、手術が唯一、がんを完全に治すことができる治療といえます。
- 手術は確かに体に負担をかける治療であり、術後の合併症なども心配される方も多いかと思います。特に胆道がんの手術は腹部手術の中でも大きな手術の部類になります。ただし、医師が手術を勧める場合はイチかバチかではなく、術前のいろいろな検査の結果を踏まえ、十分に手術に耐えられると判断した場合のみお勧めしています。
手術後の治療、生活について
- 長期間の入院や食事の量が落ちていることなどから、退院後は体力、筋力、栄養状態が低下していることが予想されます。日常生活を送る中で、少しずつそれらを回復させていってください。
日常生活について
- 食べてはいけないものは特にありません。
- お腹に強い力の加わる運動でなければ、日常生活のレベルで体を動かしてもらうことは全く問題ありません。体力をみながら、仕事に復帰していただくことも可能です。
定期通院について
- 一般的に術後5年以内は再発の可能性があります。定期通院していただき、血液検査、CTなどの画像検査を行って、再発がないかをチェックしていきます。
- 再発には肺や肝臓などへの遠隔転移や、もともとがんがあった場所に細胞レベルで残っていたがん細胞が、再び大きくなるという局所再発という形式があります。
- もともと進行がんであった場合は、再発の危険性が高くなります。場合によっては予防的な抗がん剤治療を行う補助化学療法もあります。ただし、胆管がん、胆のうがんの場合、補助化学療法の中ではっきりと効果があると証明されている治療薬は今のところありません。