間質性肺炎:どんな病気? COPDとの関係は? 治療でよくなるの?
更新日:2022/05/20
- 呼吸器専門医の井上 義一と申します。特に間質性肺炎などのびまん性肺疾患、呼吸器系希少難病を得意としています。
- このページに来ていただいた方は、もしかすると自分やご家族が「間質性肺炎になっているのでは?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- 間質性肺炎といわれて不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方のお役に立てばと情報をまとめました。
目次
まとめ
- 間質性肺炎とは、肺の奥にある肺胞の周りを覆っている間質に炎症や線維化が起きて生じる肺炎です。
- 坂道や階段で呼吸が苦しく感じる場合、空咳【からせき】が続いている場合などはかかりつけの先生に相談し、肺の聴診器による診断、レントゲン検査を受けてください。
- 間質性肺炎には、特発性間質性肺炎【とくはつせいかんしつせいはいえん】、膠原病【こうげんびょう】、過敏性肺炎など、様々な原因によるいろいろなパターンがあります。それぞれ治療法、治療の効果、予後(病後の進み行き、寿命)は異なります。
- 特発性間質性肺炎など、厚生労働省の指定難病が多く含まれます。自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
- 一般的な治療を行っても、肺が硬くなり肺線維症【はいせんいしょう】が進行する場合があります。ですが最近、線維化の進行をおさえるお薬が開発され、さらに現在も新しいお薬の開発が進められています。
間質性肺炎ってどんな病気なの?
- 吸い込んだ空気は、肺の奥にある小さな袋(肺胞【はいほう】といいます)の中に運ばれます。肺胞は間質という薄い膜で囲まれており、この中の細い毛細血管の中で、新鮮な酸素とからだの中から運ばれてきた二酸化炭素が交換されます。二酸化炭素は体に不要となった老廃物です。
- 肺胞を覆っている間質が、なんらかの刺激や原因で腫れたり(炎症)、硬くなったりする(線維化【せんいか】)病気が、間質性肺炎【かんしつせいはいえん】、肺線維症【はいせんいしょう】とよばれる状態です。
- 一般的に間質性肺炎は胸部レントゲン写真、CT(高分解能CT)でみると、左右両方にびまん性に(広い範囲にひろがって)異常が認められます(図1)。
- 間質性肺炎は、抗菌薬がきく肺炎とは異なります。
- 一部の間質性肺炎では線維化が進むため、間質性肺炎と肺線維症を同じものとしていうこともあります。
- 間質性肺炎と肺線維症は、そのほかの間質の病気と合わせて間質性肺疾患ともよばれます。
図表1 特発性肺線維症の胸のレントゲン写真
レントゲン写真では胸の左右にびまん性にひろがる白い影がみられます。
図表2 特発性肺線維症の胸のCT
CTでは肋膜の近くに蜂の巣のような小さな黒い穴が並んでいるのがみられ、蜂巣肺【ほうそはい】とよばれます。
間質性肺炎の分類
- 間質性肺炎は、次のようなさまざまな病気などが原因となって起こります。
間質性肺炎を引き起こす病気
- 皮膚が硬くなる強皮症や関節が痛くなる関節リウマチなどを引き起こす膠原病あるいは自己免疫性疾患
- 自宅や職場のカビや、空気中に浮かんでいる非常に小さな粉塵で生じる過敏性肺炎、じん肺
- お薬や放射線治療によって生じる薬剤性肺障害、放射線肺臓炎
- コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどの特殊な感染症
- 原因が特定できない場合に原因不明として診断される特発性間質性肺炎【とくはつせいかんしつせいはいえん】(特発性間質性肺炎はさらに9種類に分類されます)
- それぞれの病気でさまざまなパターンの間質性肺炎がみられるので、その診断は簡単ではありません。
- それぞれの病気でみられる間質性肺炎は、経過、治療法、予後【よご】(病気の進み行き、寿命)が異なるものの、各診断に共通する所見、治療、合併症があります。
- 肺が硬くなって肺線維症になると、肺の肋膜【ろくまく】の近くに蜂の巣のような小さな穴が多数できることがあり、蜂巣肺【ほうそうはい】とよばれます(図2)。専門家でも、肺気腫という病気による肺の穴や気管支が拡がっている状態と区別がつきにくい場合もあります。
- タバコを吸う方が間質性肺炎になると、肺気腫と間質性肺炎の両方が生じ、その場合、肺がんや肺高血圧を合併しやすくなるといわれています。
- 間質性肺炎のなかには、特発性間質性肺炎など厚生労働省の指定難病とされているものもあります。診断が確実で条件(重症の程度)を満たせば医療費補助の対象となります。
間質性肺炎と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの? 医療機関の選び方は?
かかりつけ医の受診をお勧めする場合
- 次のようなことがあった場合は、必ずしも間質性肺炎とは限りませんが、かかりつけの先生にご相談ください。
かかりつけ医の受診が勧められる場合
- ご家族や同年代のお友だちといっしょに歩いていてついて行けない
- 坂道や階段で呼吸が苦しく感じはじめた
- 痰を伴わない空咳【からせき】が続いていて治らない
- 両手の指の爪が太鼓のバチのように丸くなっている
- 健康診断や人間ドックで間質性肺炎を疑われた場合は、症状がなくても、ほおっておかずに指示に従ってください。
- かかりつけの先生に聴診器で肺の音を聞いてもらって、息を吸ったときにパチパチ、バリバリという「捻髪音【ねんぱつおん】」が聞こえる場合は間質性肺炎である可能性があります。
- 症状が安定していれば、ふだんはかかりつけの先生にみてもらうことで大丈夫ですが、呼吸器専門病院との連携が重要です。
呼吸器専門医の受診をお勧めする場合
- 次のような場合は、特殊な検査機器による精密検査が必要ですので、検査機器の整った専門医を受診してください。
専門医の受診が勧められる場合
- 初期の検査や診断、治療方針を決定するとき
- 症状が悪くなったときや、合併症がみられたとき
- 定期検査時
救急での受診をお勧めする場合
- 次のような場合は救急で病院を受診することが必要です。決してご自分で車を運転しないでください。
救急での受診が必要な場合
- 息苦しさがひどくなり治らない:慢性に経過した間質性肺炎が急に悪くなる状態(急性増悪【ぞうあく】)かもしれません。また、発熱を伴う呼吸困難の場合、新型コロナなどの感染で肺炎を生じている、あるいはそのために急性憎悪を起こしている可能性もあります。
- 急に胸の痛みが起こった:肺が破れる気胸【ききょう】かもしれません。
- 意識障害が起こった
- そのほかの緊急時
受診する前によくなるために自分でできることはあるの?
- 一般的な話ですが、息が苦しく呼吸困難が強い場合、病院を受診するまで安静を保ち、決して無理をしないでください。
- 寝た姿勢よりも座った姿勢で、落ち着いて呼吸をしてください。
- 車の運転はしないでください。
- 新しいお薬を飲み始めてから呼吸が苦しくなったり、咳が出始めた場合は、お薬を処方した先生に至急問い合わせてください。お薬による間質性肺炎の可能性があります。
間質性肺炎になりやすいのはどんな人? 原因は?
- 前に述べたとおり、間質性肺炎はさまざまな病気でみられ、原因もさまざまです。
- 原因不明である特発性間質性肺炎のなかでも代表的な特発性線維症【とくはつせいはいせんいしょう】の場合、日本では10万人あたり10人程度の患者さんがいるといわれていますが、もっと多いとの報告もあります。
- 特発性線維症は、次のようなこととの関連が指摘されています。
特発性線維症の発症と関連しうる要因
- ご高齢の方(60歳以上)
- タバコを吸う
- 粉塵【ふんじん】を吸い込む可能性のある職業や環境にあった
- ご家族に間質性肺炎の患者がいる
- 胃食道逆流がある
どんな症状がでるの?
- 間質性肺炎の症状には次のようなものがあります。
間質性肺炎の症状
- 呼吸困難:最初は動いたとき、坂道や階段を登ったときに息苦しさを感じます。病気が進むと、じっとしていても息苦しさを感じます。
- がんこな、痰を伴わない咳(空咳)
その他の間質性肺炎の症状
- 膠原病に伴う間質性肺炎では、膠原病の種類によって、複数の関節が痛い、関節が腫れる、朝のこわばり、レイノー症状、皮膚の湿疹、熱がでる、目が乾く、のどが渇く、胃食道逆流の症状など全身の症状がみられます。
- 過敏性肺炎では、特定の場所で作業する、生活をすることで、呼吸困難、咳、熱がでるなどの症状が生じます。
- 夏型過敏性肺炎のように、特定の季節に症状が生じる場合があります。
- 入院や環境が変わると症状が楽になることがあります。
- 慢性の過敏性肺炎(最近は線維性過敏性肺炎と呼ばれます)の場合、症状の変化は必ずしもはっきりしているわけではありません。
コラム:間質性肺炎の症状のあらわれ方
- 慢性発症:3か月以上かけてゆっくり症状がでる
- 亜急性発症:1〜3か月で症状がでる
- 急性発症:1か月以内に症状がでる
- 急性憎悪:慢性に発症し病気がだんだんに進んでいき、あるいは安定していた場合でも、1か月以内の経過で急激に悪くなることがあります。この場合は大量のステロイドというお薬の投与が必要となり、多くの場合、酸素療法の開始あるいは増量も必要です。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 病院では次のような検査を行って、間質性肺炎の診断をします。同時に合併症があるかないか、肺以外の異常がないかも確認します。
病院で行う検査
- 胸部レントゲン検査、胸部CT検査:特に高分解能CTという撮影のしかたがすすめられます。
- 呼吸機能検査:肺活量、肺拡散など肺の機能を確認します。
- 血液検査:一般的な血液検査に加えて、KL-6、SP-D、SP-A、BNP、膠原病では坑核抗体、各種自己抗体、カビや鳥などのアレルギーの場合にはその沈降抗体(IgG抗体)、腫瘍マーカーなど特殊なものについても調べます。
- 動脈血液ガス検査
- 心肺運動機能検査:6分間歩行試験、トレッドミル検査など。
- 心電図、心エコー検査
- 心臓カテーテル検査:肺高血圧の有無を確認します。
- 換気血流シンチグラフィー、FDG-PET検査、ガリウムシンチグラフィー:必要な場合に行う特殊な検査です。近年FDP-PET検査が増え、ガリウムシンチグラフィーはあまり行われなくなっています。
- 肺以外の病気の検査:腹部、骨盤腔CT、MRI、頭部CTなど。
病理、細胞検査について
- 典型的な特発性肺線維症では高分解能CTのパターンで診断を確定することができますが、多くの間質性肺炎の確定診断は、可能であれば肺の組織や細胞をとって調べる病理検査が必要です。間質性肺炎がどのように起こっているのかをしぼり込む鑑別診断【かんべつしんだん】に役立つ検査です。
- 間質性肺炎で、肺の組織を採取する方法には次のようなものがあります。
肺の組織の採取方法
- 気管支鏡を用いた経気管支肺生検
- 経気管支肺クライオバイオプシー
- 外科的肺生検(胸腔鏡下肺生検/開胸肺生検)
- この順番に採取される組織の大きさが大きくなり、診断も確実になりますが、からだへの負担も大きくなります。
- 肺生検のあと、呼吸器科医、放射線科医、病理医ですべての検査結果を話し合って確定診断することが、間質性肺炎のガイドラインで推奨あるいは提案されています。ですから、肺生検は設備の整った慣れた専門施設で受けていただくことをおすすめします。
コラム:細胞検査の方法(気管支肺胞洗浄:BAL)
- 気管支鏡という細いカメラで肺の中を見ながら、150ミリリットル(通常50ミリリットルで3回)程度の生理食塩水で洗浄し、細胞を集めて細胞の種類を解析します。
- 過敏性肺炎や特発性肺線維症のガイドラインでも記載されている重要な検査です。
どんな治療があるの?
- 間質性肺炎の治療法は、診断、患者さんお一人お一人の状態によって異なります。
原因不明の間質性肺炎(特発性間質性肺炎)
- 特発性肺線維症:線維化をおさえるお薬(抗線維化薬)としてのピルフェニドン(ピレスパ)、ニンテダニブ(オフェブ)。現在、この2剤以外にも多数の新しい治療薬の開発が進められています。
- そのほかの特発性間質性肺炎:副腎皮質ステロイドホルモン(プレドニゾロン)、免疫抑制剤(アザチオプリン、サイクロスポリン、サイクロフォスファマイド:すべて適応外=この病気に使うことは保険では認められていません)などのお薬。
- 線維化が進行する場合は、線維化をおさえるお薬のニンテダニブ(進行性線維化を伴う間質性肺疾患:PF-ILD)。
膠原病に伴う間質性肺炎(自己免疫性間質性肺疾患)
- それぞれの膠原病に対する一般的な治療のお薬(ステロイドホルモン、免疫抑制剤、生物製剤)。
- 一般的な治療を行っても線維化が進行する場合は、ニンテダニブの投与を考慮(進行性線維化を伴う間質性肺疾患:PF-ILD)。
職業環境性間質性肺疾患(過敏性肺炎、じん肺)
- アレルギーの原因(鳥抗原、カビなど)、粉塵吸入が明らかな場合は、その原因を避ける。
- ステロイドホルモン。ときに免疫抑制剤など(適応外です)のお薬。
医原性(薬剤性、放射線肺臓炎)、感染症、そのほかの間質性肺炎
- 原因の治療を行い、その原因を避ける。
- ステロイドホルモン。ときに免疫抑制剤など(適応外です)のお薬。
そのほかの治療
- 急に病気が悪化したときは、高濃度のステロイドを数日という短い期間で断続的に点滴投与するステロイドパルス療法。免疫抑制剤などのお薬。
- 咳止めなどの症状に応じた治療。
- 呼吸不全患者には酸素療法。
- 呼吸リハビリテーション。
- 間質性肺炎に肺癌が合併した場合、その治療。間質性肺炎が悪化する場合があり、治療法は限られます。
- 条件を満たせば肺移植。
コラム:治療の可能性
- 特発性肺線維症は、かつて治療法がないとされていましたが、近年、お薬(抗線維化薬)が開発されました。
- 医学の進歩に伴い、さらに特発性肺線維症、進行性線維化を伴う間質性肺疾患に対して、新しいお薬を使った治療法が開発され、その安全性や有効性を調べるための試験(治験【ちけん】)が世界中で行われています。
- 2022年に発表された特発性肺線維症の国際ガイドラインでは、薬物療法としてニンテダニブとピルフェニドンが記載されていますが、患者さんには可能な治験情報を伝えるべきである、と記載されています。
- 近い将来、特発性肺線維症あるいは進行性線維化を伴う間質性肺疾患の予後や生活の質(QOL)の改善が期待されています。
- 膠原病に対しても新たな免疫抑制剤や生物製剤などのお薬の開発が進んでいます。
お医者さんで治療を受けたあとに注意をすることは? 治療の副作用は?
- お薬を飲み始めてから、新しく別の症状(咳、痰、息苦しさ、熱がでる、だるい、動悸、筋肉痛、足や顔の腫れ、頭痛など)が出た場合や、症状が悪化した場合は、まず処方していただいた医師に相談してください。
- 緊急を要するときはお薬の中止が必要かもしれません。
- それまで安定していても1か月程度の経過で呼吸困難が進行性に悪化する場合、急性増悪の可能性があります。医師の診察を受けてください。
- 以下に、主な薬剤の副作用を簡単にご説明します。
副腎皮質ステロイドホルモン(プレドニゾロン)の副作用
- 感染症:カビ、非結核性抗酸菌症、結核、単純疱疹、B型肝炎の悪化など
- 消化性潰瘍【かいよう】、白内障、緑内障、糖尿病、高血圧、血栓症、精神変調などの発症、増悪に注意が必要です。
免疫抑制剤、生物製剤の副作用
- いろいろな種類の免疫抑制剤、生物製剤が使用されますが、それぞれの副作用や注意点は、主治医、薬局でご確認ください。
- 感染症にかかりやすいので注意が必要です。
抗線維化薬の副作用
- ピルフェニドン(ピレスパ):光線過敏症、発疹【ほっしん】、食欲不振、胃不快感、おう気、下痢、眠気、体重減少、など。
- ニンテダニブ(オフェブ):下痢、肝機能障害、血栓塞栓症、血小板減少、消化管穿孔【せんこう】など。
予防のためにできることは?
- 間質性肺炎の予防のためには、次のようなことに気をつけてください。
予防のために気をつけること
- タバコを吸う方は基本的に禁煙してください。
- 粉塵吸入やアレルギーの原因がある場合は、それを避けてください。
- インフルエンザなどの感染症の予防のため、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンを接種してください。
- 胃食道逆流があればその治療をしてください。
- 規則正しい生活を心掛け、ストレスを避けてください。
治るの? 治るとしたらどのくらいで治るの?
- 原因が明らかな場合(喫煙、薬剤、アレルギーの原因)は、その原因を取り除くことができれば、間質性肺炎が治る可能性があります。
- ステロイド、免疫抑制剤で軽快し、ほぼ治るタイプの間質性肺炎もあります。
- ただし、一時的によくなったり悪くなったりを繰り返したり、一般的な治療を行ってもだんだんに線維化が進む場合も少なくありません。
- 予後や、どれくらい治療の効果があらわれるかは間質性肺炎の種類によって異なるため、最初にどのような間質性肺炎か診断を受け、治療方針を確認いただくことが重要です。
追加の情報を手に入れるには?
- 間質性肺炎(特発性間質性肺炎、膠原病など)の情報は関しては以下のウェブサイトをご覧ください。
- 厚生労働省難病情報センター(一般利用者向け):指定難病各疾患の解説、手続きについて
- https://www.nanbyou.or.jp
- 日本呼吸器学会:市民の皆様へ:呼吸器の病気 D. 間質性肺疾患
- https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/d/
- 日本呼吸器障害者情報センター:呼吸機能障害、在宅酸素療法など
- https://www.j-breath.jp
- 胚移植のためのガイドブック:肺移植について
- https://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/photos/650.pdf