心筋症:原因は?どんな症状がでるの?治療でよくなるの?
更新日:2020/11/11
- 循環器専門医の北岡 裕章と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が心筋症になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 心筋症とは心臓の筋肉の病気で、いくつかのタイプの病気の総称です。
- 代表的なものとして、心臓の動き(収縮)が弱り、心臓が大きくなる拡張型心筋症と心臓の壁が厚くなる肥大型心筋症があります。この両者では、症状や治療が全く違います。
- 拡張型心筋症の原因は不明のことも多いですが、一部は遺伝子の変異が関係します。
- 肥大型心筋症の半数は、家族性で遺伝子の変異が関係していると考えられています。
- 拡張型心筋症の症状としては、息切れやむくみ、肥大型心筋症では、息切れや失神(気を失うこと)があります。
- 特発性拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症は指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
心筋症は、どんな病気?
- 心筋症とは何らかの原因で心臓の構造や働きに異常がでる病気です。
- 代表的なものとして、心臓の動きが低下する拡張型心筋症と心臓の壁が厚くなる肥大型心筋症があります(図1)。
- 同じ心筋症という名前がついていますが、両者では、症状、経過や治療が全く違います。
- 拡張型心筋症の一部、肥大型心筋症の半数程度は、遺伝子の変異が原因と考えられています。
- 特発性拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症は指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
図表1 心筋症のエコー写真
正常時と拡張型心筋症・肥大型心筋症時の心臓のエコー写真です。
心筋症と思ったら、どんなときに病院への受診したらよいの?
- 下記を目安に病院の受診を検討してください。
専門医の受診がおすすめな場合
- 息切れ、むくみ、倦怠感、食欲低下などの症状がある場合
- 健康診断などの胸部レントゲンで心臓が大きいといわれた場合
- 家族に肥大型心筋症の人がいる場合
- 健康診断の心電図で左室肥大を指摘された場合
救急車を呼んだ方が良い場合
- 意識が遠のいたり、失ったりした場合
- むくみ・息切れがひどい場合
心筋症になりやすいのはどんな人?原因は?
- 心筋症の種類によって原因が異なります。
拡張型心筋症
- 正確な頻度はわかりませんが、人口2000人に1人程度いると言われています。20-40%は遺伝子の変異が原因と言われています。
- 遺伝子の関係ない原因として、ウイルスなどの慢性炎症や自己免疫の関与が報告されています。
肥大型心筋症
- 500人に1人程度いると言われており、比較的多い病気です。
- 半数程度の方が、家族に同じ病気があり、多くは家族性(遺伝子の変異)と考えられています。
- 家族に病気がいない方も、一部は遺伝子の変異が関係します。
どんな症状がでるの?
- 心筋症によって症状や症状の出方は異なります。
拡張型心筋症
- 早期は無症状のことが多いです。
- 心臓の動きの低下が進むと、息切れやむくみなどの心不全の症状と不整脈による動悸やめまいを感じる場合があります。
- 不整脈がひどいと、突然亡くなられることもあります。
- 適切な治療をしないと、次第に心臓の働きが低下することが多いです。
肥大型心筋症
- 多くの方は無症状か、重い症状はありません。
- 症状として多いのは、息切れ、呼吸困難、胸の痛みです。
- 注意すべき症状は、失神です。これは、心臓の筋肉が厚いため、心臓の出口が狭くなることで血液が十分出なくなり、脳に血液が行かなくなるために起きます。
- 心房細動という不整脈を合併しやすく、適切な予防を行わないと脳梗塞の原因となります。
- 最も重大な合併症は突然死です。失神を起こした方、ご家族に突然死をされた方がいらっしゃる方、心臓の壁が非常に厚い方などは可能性が高いと報告されています。
- 多くは10代から20代で、心肥大が出現します。症状がなくとも生涯に渡り、経過観察が必要です。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 心筋症の種類によって検査項目は異なります。
拡張型心筋症を疑った場合
- 心電図:心臓から発せられる電気信号を読み取ります。心臓に負担がかかっていないかや不整脈を調べることができます。
- 胸部レントゲン検査:心臓に負担がかかっていると心臓が大きくなるので、これを評価します。
- 採血検査:BNPもしくはNT-pro BNPという心臓から出るホルモンを調べます。心臓の負担に比例して心臓から出てくるホルモンで、心臓に負担がかかっている指標になります。
- 心エコー検査:心臓の動きや大きさなどを調べます。
- 心臓MRI:心臓の動きや大きさに加え、心臓の筋肉の状態を調べます。
- 心臓カテーテル検査:心臓がきちんとポンプ機能を担えているか、心臓の筋肉を養う血管である冠動脈に異常がないかなどを調べます。
肥大型心筋症を疑った場合
- 心電図:心臓から発せられる電気信号を読み取ります。心臓肥大がないかなどを調べることができます。
- 胸部レントゲン検査:心臓に負担がかかっていると心臓が大きくなるので、これを評価します。
- ホルター心電図(24時間心電図):不整脈の確認のため行います。
- 心エコー検査:心臓の壁の厚さの有無や程度の確認、心臓の出口の狭さの有無を調べる検査です。
- 心臓MRI:心臓の筋肉の状態を調べます。
- 心臓カテーテル検査:必須ではありませんが、胸痛の原因が分からない場合や心臓肥大の原因が分からない場合に行います。
どんな治療があるの?
- 下記のように心筋症の種類によって治療も異なります。
拡張型心筋症
- 減塩など生活習慣の改善と薬物治療が中心です。
- 薬物治療としては、心臓の筋肉を保護する薬(ベータ遮断薬、アンキオテンシン変換酵素阻害薬)などを使います。心臓の働きの低下の進行を抑える効果があります。
- むくみの程度により、利尿剤を投与します。
- 不整脈の種類により、抗不整脈薬や脳梗塞の予防のための抗凝固薬を投与します。
- 適切な薬物治療にもかかわらず、次第に心臓の働きが低下し、病状が悪化する患者さんには、両心室ペースメーカーを植え込みます(脈が遅いことことを治療する通常のペースメーカーとは異なります)。
- その際には、突然死の予防のために除細動機能付きのペースメーカーを選択する場合もあります。
- これらの治療でも心不全が十分コントロール出来ない場合は、心臓移植の適応になることがあります。
肥大型心筋症
- 突然死の可能性が高いかを評価し、可能性が高いと判断されれば、植え込み型除細動器を相談します。
- 残念ながら、薬物治療では突然死を予防することは困難です。
- 息切れや呼吸困難などの症状に対しては、薬物治療を行います。
- 薬物治療でも症状が十分コントロールできない場合で、心臓の出口の狭さが関係ある場合(閉塞性肥大型心筋症)は、カテーテル治療や手術を検討します。
- 心房細動に対しては、抗凝固療法や異常な電気信号を出さないようにする手術を行います。
予防のためにできることは?
- 心筋症の多くは、残念ながら予防は出来ません。
- 早期に発見・診断し、適切な治療を行い、病気の進行を抑えることが重要です。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 残念ながら、心筋症は治ることはありません。
- 生涯に渡る治療や経過観察が必要です。しかし、適切な治療で、病気の進行を抑えたり、長生きをすることは十分可能です。
追加の情報を手に入れるには?
- 心筋症に関しては、下記のページを見るとよいでしょう。
- 日本循環器学会のガイドライン
- http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2018_tsutsui_kitaoka.pdf
- 難病情報センター 特発性拡張型心筋症
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/3986
- 難病情報センター 肥大型心筋症
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/3986
もっと知りたい! 心筋症のこと
その他の心筋症
- 他の心筋症として、拘束型心筋症や不整脈原性右室心筋症などがあります。
- 難病情報センター 拘束型心筋症
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/100